アメリカの大学受験

2010年、6年生からハワイのPunahou School に通い、卒業後は日本の大学の国際教養学部に通っています。ハワイでの高校生活や、普段の生活を通して感じた事、体験した事をみんなとシェアしたいと思います。

ハワイ全体では少し状況が異なりますが、プナホウでは卒業後、大学へ進学する生徒がほとんどです。アメリカの大学受験のシステムは日本とは違うので、今回は受験について書きたいと思います。

共通試験ACTとSATのシステム

ACTとSATは、日本でいうセンター試験のようなテストでしょうか。科目は国語、数学、エッセイで、ACTは科学があります。国語は読解、文法、ボキャブラリー、数学は計算機有り・無しに分かれています。

ほとんどの大学では、受験の際にどちらかのスコア提出が必須となっています。ほぼ毎月、第1土曜日にSAT、第2土曜日にACTが行われ、プナホウも含めた様々な高校がテスト会場になります。
1回しか受けない人もいますが、ほとんどの人はより良い成績を取るために2回受験します。

SATは2016年に改定され、1600点満点となりました。平均点は1050~1060点くらいです。エッセイは24点満点で、1600点とは別にカウントされます。最低得点は400点です。名前を書いて提出すれば400点は貰えるという事です。一方でACTは36点満点、平均21点です。ACTでもエッセイは別採点となり、12点満点になります。ACTの最低点は1点です。点数に差はありますが、レベルの違いはほとんどありません。

どちらのテストも、Ivy Leagueやその少し下のランクの大学を受けるなら満点に近い成績をとらないと、他にアピールできるポイントがない限り合格の可能性は低いでしょう。

アメリカでは日本と違い、塾に通ってSATやACTの対策をするという考えはあまりありません。特に私立では学校の授業や課題自体が難しいため、それをこなしていれば特別な勉強をしなくてもテストの問題は解けるからです。

ACTとSATの内容

SATやACTの難しい点はいくつもありますが、まずは終わらせない前提でテストが作られている事です。例えばSATの国語は100分で、5つの文章について52問の読解問題と、44問の文法・ボキャブラリー問題が出されます。文章を読む時間を考慮しなくても、1問1分しかありません。普通に解いていたら終わりません。

また、問題が理解しにくいです。内容自体はそれ程難解ではないのですが、2、3段階ステップを踏まないと答えに辿り着けなかったり、難しい言葉やダブルネガティブ(二重否定)など様々なテクニックが使われ、質問を不明瞭にしています。試験はマークシート方式なので選択肢を見ればなんとかなると思うかもしれませんが、分からない時は本当に見当もつきません。

最後に、国語によくあるのですが、受験者の感覚と考察が試される質問で、該当する答えが2つあるケースがあります。本文に答えは載っていないので完全に受験者の考察に委ねられ、厄介な事にどちらも間違った答えではありません。ただ、どちらかの方がよりいい答えだった、という違いがあるだけです。

エッセイは制限時間の30分で、質問に作文で答えるテストです。このセクションは最後に来るので、脳の疲労がとても大きいですね。自分の考えを、論理や証拠を提示して理論立てて書くことが求められます。最近はテストの形式が変更され、予備知識が無くても答えられるトピックが出されるようになりました。

基本の科目は国語、数学、エッセイですが、必ずしもこれだけを受ければ大丈夫というわけではありません。難易度の高い大学では、他の科目のスコアの提出も課せられます。

他の科目を受けられるのはSATだけですが、歴史、物理、外国語などがあります。これ等もマークシート形式で制限時間は60分です。主要科目との違いは、間違えるとペナルティが発生することです。問題を1つ間違えると、その質問の該当点とさらに1/4点を失う事となります。因みに改定される前のSATは、この主要科目でもこの制度を採用していました。

ACTとSATはどちらか1つ、または両方受ける事も可能です。どの大学でも、どちらのテストスコアも受け付けています。

Common Applicationと学校毎のエッセイ

アメリカの大学受験ではACT/SATのスコア、成績表等の提出と共に「Common Application」と呼ばれる申込書を提出します。これはウェブ上で作成する出願書で、アメリカ国内であれば登録したものをどの大学にも送る事が出来ます。

「Common Application」の最後には600文字の自己紹介エッセイがあります。このエッセイは全ての受験大学に送る大事なもので、かつほとんどの人が最初に書くエッセイなので、ストレスが一番大きいような気がします。

さらに、「Common Application」とは別に、出願する学校毎に、各大学から出されたトピックにしたがってエッセイを提出します。志望理由、いままでで一番苦労した経験、「Common Application」とは別の題材で書く自己紹介、今年一番衝撃的だった時事問題、現代のティーンエイージャーでいる難しさ、今までで一番思い出に残っている仲間と協力した話など、テーマは様々です。

似たようなトピックがあれば使い回す事も出来ますが、ほとんどのエッセイや、特に志望理由は学校毎に下調べをして書かないといけないので、非常にたくさんのエッセイを書く事になります。

加えて、アメリカの大学受験は年度の前半に行われます。受験のために学校の課題や授業が減る事はありませんし、大学に提出する成績表にも影響するので、成績を落とす事も出来ません。

私は9校受けたのですが、これはアメリカでは少ない方です。もっと受けた方がいいのではないかと、よく進路カウンセラーに心配されました。平均的な受験数は15校くらいですね。
大学受験の負担の大きさを、よくプナホウの生徒は「学校の授業がもう1科目増えたみたい!」と表現します。

「Senioritis」

日本のほぼ一発勝負と違い、アメリカの受験で大事なのは完成された出願書を送ることなので、期限になるまで時間をかけて考え抜いたり、何度も手を加えたり出来ます。ACTとSATも提出期限1ヶ月前まで、何回でも受験可能です。

ですが、その反面「この条件を満たしていれば、ほぼ入れるだろう」という確信は持てません。だから各生徒が受験する大学の数が多くなるのかもしれませんね。

更に日本と違う点は、出願締め切りから結果発表まで3ヶ月近くかかることです。出願したのは前期の終わりなのに、返事が帰ってくる頃には学年が終わろうとしている、という事になりますね。

前半で辛い持久戦を強いられた上に、あまりにも長い結果待ちの期間が続くので、後期はほとんどの生徒が大学についてあまり考えず、学業から少し距離を置き、卒業前の時間を楽しむ事を優先します。

プナホウでもカーニバルや卒業式の準備が行われるのは後期ですし、季節は段々と夏へ近づいていくので、気分も開放的になります。大学に入ったらまた頑張らないといけないので、最後の年の後半と卒業直後の夏は遊び尽くします。放課後に遊びに出かけたり、もうすぐお別れする学校でピクニックをしたり、休日は海に行ったり、過ごし方は人それぞれです。

これをアメリカでは「Senioritis」と呼びます。受験に疲れて最後くらい遊びたい、思い出を作りしたい、という思いから来る症状(?)を指します。ただ、学校の課題や授業に今までほど力を入れない、というのはよくあることですが、あまりにも手を抜きすぎると合格取り消しもあり得るので、ある程度の水準を保つことは大事です。

「Gap Year」

アメリカでは、高校卒業後すぐに大学に進学しない事も珍しくはありません。「Gap Year」と呼ばれる、合格した大学の入学資格を持ったまま入学前に1年間休学できるシステムも、それを後押ししています。

「Gap Year」はどのように過ごしても自由です。バイトでお金を貯めたり、世界一周したり、ただのんびりと過ごすこともできます。大学の籍は一年間保証されるので、失うものは何もありません。また、一度入学した後も日本と同じく、休学する事はいつでも可能です。

プナホウの生徒はこの制度をあまり使わないようですが、全くいないわけではありません。例年4、5人はいます。大学の前に自分探ししてみるのもいいと思います。

少ないですが、プナホウの卒業生にも大学に進学しない人もいます。
私の同級生にも、プロのサーファーになる為に進学しなかった子がいました。彼は高校在学中から大会で成績を出してスポンサーも付いていたので、大学に進学するよりも、若いうちに自分の可能性を試そうと思ったのかもしれません。

最後に

今回の記事はハワイやプナホウの事というよりも、アメリカ全体での受験と進学のシステムについて触れました。とても長い記事になってしまいましたが、日本とは様々な点において違うことを、少しでも面白いと思ってもらえていたら嬉しいです。

日本では「アメリカの大学は入るのが簡単」と言われているとたまに聞きますが、私はそうは思いません。状況がかなり違うので、努力の仕方も異なるだけの話でしょう。「絶対にまた受験の道は通りたくない」という思いは世界共通だと思っています(笑)。

受験が終わった後、プナホウでは楽しいイベントが続きます。
ハワイからの大学進学は必ずと言っていいほど、友達みんながバラバラになるという事を意味するので、最後に楽しい思い出をたくさん作るための配慮かもしれませんね。