ピンクパレスのメインダイニング、Azureは言わずと知れたOcean-to-Tableの草分けである。
モロッコ調のエキゾチックモダンな店内も素敵だが、何といっても4テーブルしかないオーシャンフロント最前列がお勧めだ。 目の前にピンクパレスのプライベートビーチが広がり、 左はダイアモンドヘッド、右はサンセットを望めるベスポジだ。
オープンきっかりの5時半から繰り出そう。まだ陽が煌々と射し込む中、大勢の人で賑わうビーチを貸し切り状態でテラス席で、グラスシャンパン片手に眺めるのは心地いい。グラスを飲み干す頃には少し陽ざしが傾きだした。ここからはお日様が急いで店仕舞いをする。ビーチ越しのダイアモンドヘッドの定点観測から目が離せない。いよいよハワイ随一のサンセットショーのはじまりだ。
メインディッシュは近海で捕れたDaily Catchから魚を選び、調理法をチョイスする。これがまた楽しい。
あとはスターターにビーツサラダ、アペタイザーにカウアイシュリンプのガーリックグリルをセレクトし、ゆっくりとワインリストを眺める。
ここのワインセレクションはなかなかだ。フランス、イタリアからサードワールドまで、グランクリュからコスパ品とソムリエのおもてなしが伝わってくる。有名シャトーやドメーヌもいいが、ここはWhen in Rome, do as Romans doよろしく、ナパでいこう。
まずは最近めっぽう評判のいいCakebreadのシャルドネを開栓した。ナパの乾いた陽ざしをふんだんに浴びた柑橘系のフレッシュ感に、格付けシャトーを彷彿させるテロワールを感じるミネラル感、そして何よりスモーキーな樽感がオーク樽での丹念な熟成を感じさせる。かなりご機嫌なシャルドネ、お目にかかれて光栄だ。
抜けるような青空が黄金色にうっすらと化粧を施して、シャルドネのグラス越しの風景と重なって合っていく。やはり料理は五感で愉しむものだろう。と、黄昏ていると、カウアイシュリンプのガーリックグリルがサーブされた。一瞬我に返り思わず怯む。サイズも量も想定外。おひとり様にはハーフポーションがお勧めか。さりとて味は絶品、空が茜色に染まる頃には最後の一尾を平らげていた。
ここからはお日様の店仕舞いが加速する。極上のサンセットをBottom’s UpさせたCakebreadの最後の一杯で堪能した。火照った頬を優しく撫でる夕風が心地いい。正に至福のひと時である。
陽が沈みライトアップされたビーチ沿いとのコントラストが鮮明になった頃、メインディッシュが運ばれてきた。そろそろ赤ワインが欲しくなる頃だ。ワインペアリングの常識に目を瞑り、Stag’s Leapのカベルネをオーダーした。ナパの赤では珍しい果実味をタンニンの深みで見事に抑え込んだ秀品だ。
メインデッシュのオパのグリルが運ばれた。今回もモイにはありつけなかった。これで3度目、やはり幻の魚ということか。ぶつぶつ呟く口にレモンジンジャーソースを絡めたオバをねじ込むと一変、目尻が下がり口元が緩んだ。美味しい、香ばしい、そして新鮮だ。
気がつくと辺りはすっかり暗くなり、あちらこちらで松明が焚かれていた。今も昔も変わらないハワイらしい光景がどこか懐かしい。いつしか喧騒も消え、打ち寄せる波の音が鼓膜を擽る。極上のBGMだ。
持ち帰るつもりで頼んだ2本目のボトルも微妙な残量となっていた。心の葛藤を見透かすかのように、サーバーがさり気なくデザートメニューを差し出した。絶妙だ。おすすめのクレムブリュレをオーダーし、2本目のBottom’s Upでサンセットディナーショーを締めくくった。
独りがいい、が負け惜しみに聞こえない、五感で愉しむファインダイニング。次はモイに出会えるだろうか・・・