ハワイ屈指のシェフ、アラン・ウォンのシグニチャーレストラン。ツーリストには少々物騒なサウスキングストリート沿いのこじんまりとしたビルの3階、恐る恐るトビラを開けると、そこには息を飲む別世界が広がった。品格漂うフロアは、着飾ったセレブ客で賑い、溌剌としたサーバー達が、まるでマエストロのようにメニューの説明でテーブルを廻る。
そんな中、案内されたのはオープンキッチンのカウンター。当日予約だったから仕方がない、の言い聞かせを見事に裏切る光景が広がった。アイコンタクトのみで黙々と自分の役割を熟し、流れ作業で料理が完成していく様は、静寂の中の整然、集中と調和が織りなす心地よいハーモニーのようで、一瞬トーキー映画を観ているかのような錯覚に陥った。
と、そこへ語り部よろしくサーバー(ウェイター)が心地良いリズムと五感を掻き立てるメニュープレゼンテーション。やはりファインディナーは一流のショーでもある。さあ開幕。
己の視覚と感性に訴えかける盛り付け、食した瞬間その味覚の虜になる味わい。複雑、洗練、斬新、地産をキーワードに、遊び心やギミックが詰まったアペタイザーの数々は、まさに視聴覚の平衡感覚が整いを乱す瞬間であった。
押し寄せる圧倒感に少し耐性が出来た頃、ふと周りを見回すとコケイジャン(白人)のネイティヴな英語が飛び交う完全アウェーな状況に些か驚いた。パシフィックリムの最高峰の店だから? スターシェフの店のだから? オバマ前大統領のお気に入りの店だから? 日系人を筆頭にアジアからの移民とネイティヴハワイアンが大勢を占めるハワイを考えると複雑だ。
初めての方は、おすすめコースが良いだろう。アペタイザーからメイン、デザートまでスペシャリテのオールスターゲームを思う存分堪能できる。
極上のショーを堪能し店をでると、そこはワイキキのネオンと喧騒とはかけ離れた人影疎らなサウスキングストリート。チェック前にタクシーの手配を忘れずに。