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存在感増すチャータースクール – ハワイ初のチャータースクールに取材

アメリカには公立学校、私立学校と並んでチャータースクールがある。ハワイでは私立学校に通う生徒は24%と、アメリカの中でも他州に比べて飛び抜けて高い。昨今私立学校の授業料が年々増加する中、新しい選択肢として注目されているチャータースクールとは。カハラ地区にあるワイアラエ・チャータースクール(Wai’alae Elementary Public Charter School)の校長、カポノ・チオッティ氏に話を聞いた。

チャータースクールとは

チャータースクールは公立学校の一形態だ。学区の生徒を対象に税金によって運営される。だが、一般的な公立学校はDepartment of Education(DOE)が定めるポリシーの下運営されるが、チャータースクールは各校が独立した運営委員会を持ち、State Public Charter School Commissionとのパフォーマンス契約の下運営される。通常の公立学校はDOEが決めたカリキュラムに基づいて授業の仕方などが決められ、教師もホノルル、ハワイ島、マウイ島などの州内での移動もある。一方、チャータースクールは個々の学校が独立してるため転勤はない。

ワイアラエ・チャータースクールでは1クラス20名で1学年4クラスあり、スペシャルエデュケーション担当の教師が1人、パートタイムの補助が2人つき、1学年を教師・スタッフ7名、上級生になると6名で1学年を教える。公立の場合、上級生になると30〜35名で1クラスということも多々あるが、チャータースクールでは上級学年でも少人数制が保たれている。

チャータースクールは1990年、DOEの教育に疑問をいだいた地域の親を中心に、校長やカリキュラムを親や周辺のコミュニティが主導して決めていきたいという信念から始まった。市や州の議員達との活動や手続きを経て、1999年にワイアラエ・チャータースクールがハワイで初のチャータースクールに認定された。

チャータースクールと公立学校の教育の大きな違いは、結果と過程の比重だ。公立学校は、年に1回行う学力テストで一定の点数を達成することがゴールであり、そのための勉強に力を入れている。一方、チャータースクールもゴールは同じであるが、その過程は決して机に座って勉強するだけではなく、実際に触れたり体験して学ぶプロジェクトや課外学習にも力を入れ、学習の過程に重きを置く。体験型の学習を大切にし、その結果が学力テストの点数に反映される導き方をしている。

公立、私立、そしてチャータースクールへ

「1831年、アメリカで初の公立学校ができたのが、マウイ島のラハイナルナ学校でした」と校長のチオッティ氏は話す。他に先駆けて公教育が始まったのなら、現在はさぞかし進んでいるだろうと思いきや、現状は喜ばしいものではない。ハワイ全体では24%、ホノルル中心では約40%の子供が私立学校に通い、全米最大規模の私立学校は、1、2位ともにハワイ州のプナホウ・スクールとカメハメハ・スクールである。ハワイ州の公立学校の学力テストの結果も、他州と比較して高いとは言えない。

この状況を受けて、私立学校に通う生徒はこれまで着実に増え続けてきた。反面、物価の高いハワイでは親が2つの仕事を掛け持ちし、教育には関心があるものの、子供の勉強を見てあげられる家庭が少なくなっていくのが現実であった。こうした状況を打破する選択肢として脚光をあびたのが、チャータースクールの存在だ。

チャータースクールでの学び

「地域に住む子供は、無条件でワイアラエ・チャータースクールに入ることができます。地域外の子供も、1学年80名の定員の中でスペースに余裕があれば、「GE(Geographic Exception)」として、抽選によって入学のチャンスがあります。現在全体の4割がGEの生徒で、その競争率は実に10倍です」と、チオッティ氏は語る。

それだけ多くの応募者が集まる理由について、点数で測る事ができる学力だけでなく、そこに到達するまでの過程に重きを置いた教育が評価されていると答える。本を読むだけ、算数の数式を答えるだけ、エッセイを書くだけではなく、それらを融合し、完成させることを重視している。

「世界がどのように日々変わっていくのか、コミュニティについて学ぶにしても、普段の自分の生活にどのように関わっているのかを理解する事が大切。実際、人生もこのように多くのことがリンクしています。早く習得するのではなく、より深く物事を学ぶ。ただ覚えるのではなく、なぜそれが必要なのかを理解することに意味があります。」とチオッティ氏は続ける。

ワイアラエ・チャータースクールでは、アメリカの心理学者であるジョン・ドゥーイ氏(John Dewey)の理論を基本にしているという。暗記するだけでなく、手を使って勉強する。そこに到達するまでの理論と過程も重視し、モンテソーリに共通する部分もあるという。

ハワイの教育事情から見る、チャータースクールの生徒増加

複数の島からなるハワイ州では、その独特な地理的条件が公教育にも影響を及ぼしている。例えば他州では、1つの公立学校が優れていると、それに合わせて近隣の学校もよくなっていくシナジー効果がある。だが、ハワイでは海によって物理的に隔てられている場合や、同じ島内でも公共交通機関に乏しく、東西での相互影響がほとんどない場合もある。

現在ハワイでは、DOEが先導し、多くの学校が「生徒第一」に学校方針を変えていこうと動いている。だが、例えばラナイ島とホノルル市街地の学校では、背景となる生徒の家庭環境も違えば、子供たちももちろん違う。公立学校のカリキュラムを変えようとしても、その規模と差異があまりにも大きく、全ての学校のカリキュラムを一律に変えていくことは簡単ではない。その点、チャータースクールは学校単位で動くことができ、公立学校よりも早く対応することができる。

最近地元紙に、チャータースクールの生徒数増加に関する特集があったことに対して、その理由をチオッティ氏にうかがったところ、授業料と賃金との比率が大きく影響しているという。

「2004年ごろから私立の授業は年5〜10%上昇する傾向にある中、ハワイ州の平均賃金は2〜4%しか上がらず、高い授業料を支払い続けることが難しくなった家庭が多くあります。しかしながら、これまで私立学校に通わせていた親は、他州と比較してまだレベルが高いとは言えない公立学校に移ることに抵抗がある。そういった家庭が目を向けたのが、個々でカリキュラムを作り、地域の人が校長を選ぶチャータースクールでした。この変化により生徒数が減少し、閉校を余儀なくされた小規模な私立学校もありますが、チャータースクールの生徒は着実に増えてきています。」

ワイアラエ・チャータースクールを卒業した生徒は、オアフ島でも学力・人気ともに高い、カイムキ中学校、カラニ高校へと進学するが、中学から私立に行く子どももいる。学ぶ姿勢を身につけるために大切な小学校時代は、「毎日の学び方と、学校に行くことが楽しみであることが子供の成長のカギ」だとチオッティ氏は語る。

私立と公立の良さを併せ持つ、人気のワイアラエ・チャータースクールには今年も多くの応募が集まることは間違いない。